J0340900

建築家職能論

Theory of Architects Profession

開講部

工学部

開講学科

建築学科

開講学年

4年次

開講時期

前期

単位数

2

単位区分

選択

系列区分

専門

講義区分

講義
講師河野進この先生のアンケート一覧を参照

授業の概要

《授業の目的》建築や街を設計する専門家としての「建築家」という職業や考え方は、明治以降の近代化の中で、西欧流の職業・考え方として新しく取り入れられてきたものです。それまでの日本では、家や街の建設は大工の棟梁を中心とした、伝統的な技術を持った職人集団によって担われ、設計と言う仕事のみを担う職業人は存在しませんでした。戦後ようやく<建築士法>が制定され、建築設計監理者の資格が法律で定められました。しかしながらそれは、戦災復興を担う建設技術者の早期養成という社会的要請に答えるための資格という性格が強いものでした。建築士には設計監理の専門家だけでなく、構造や設備の技術者も同一の資格者として包含されており、職業者として備えるべき倫理規定や業務規定についても触れられていないなど、諸外国の資格者制度と比較しても様々な点で不充分な点が多い制度でした。2005年11月に耐震偽装問題が明らかになり、建築生産システム全体の後進性や問題点が明らかになり、国交省を中心に制度改正の動きが始まりました。2006年6月に建築基準法と建築士法の改正案が国会を通過しました。しかしながらその内容は建築生産システムを正常化することよりはむしろ混乱を深める結果になっています。時代は大きな変動の時期を迎えています。建築家を含む建築生産に関わる多様な専門家・技術者の役割も変化しており、そんな時代に建築に関わる職業を選択しようとしている諸君は、自らの立ち位置を自覚するとともに、将来に向けた冷静な認識を持つ必要があると思います。建築家及び建築に関わる多様な技術者資格の歴史的な変遷とその背景を外国の制度も交えて学びながら、これからの建築設計者や技術者の課題と進むべき方向を考えます。
※授業内容にふさわしい建築家を毎回1人取り上げて、その建築家が建築及び建築家の社会的役割などに付いて表明している考え方について、作品を参照しながらレクチャーします。
  辰野金吾、前川國男、丹下健三、槙文彦、伊東豊雄、内藤廣ほか

達成目標

1.建築設計および建築生産を取り巻く多様な資格者と其の課題について認識を深める。
2.建築の有する社会性、公共性について理解し、併せてそれに携わる専門家の役割と責任及び倫理について学ぶ。
3.建築や都市を取り巻く自然環境や景観の重要性を理解し、その保全の為の方策について学ぶ。
4.国際的な課題である、地球温暖化問題に与える建築生産の影響と責任の重さ、及びその対策に付いて学ぶ。
5.時代を代表する建築家達の、建築を巡る多様な言説を理解する。

授業計画

1.建築家職能論の意味と意義
  ・職能(プロフェッション)とは
  ・建築生産全体を支える多様な専門家・技術者の役割
  ・建築家職能論の歴史的変遷
2.建築とは・建築家とは
  ・建築と建物・・ArchitectureとBuilding
  ・建築家と資格
  ・職業選択の自由と業務独占
  ・前川國男
3.日本の建設産業の特性
  ・GDP(国内総生産)に占める建設投資割合の大きさ
  ・建築生産の縮小傾向と業務領域の多様化
  ・建設コストの不透明性とCM、PMなどの新しい動き
  ・丹下健三
4.日本の建築家職能史
  ・建築家前史・・建築家なしの建築(民家、社寺、城郭)
  ・明治以後の近代化過程・・文明開化
  ・辰野金吾
5.建築士法の成立
  ・戦災復旧の緊急性と技術者法的な性格
  ・伝統的な建築生産システムの温存
  ・耐震偽装事件を契機に行われた建築士法改正の問題点
  ・内藤廣
6.建築基準法の成立
  ・建築物の性能、品質の確保…ヒトの法とモノの法
  ・民間確認制度の導入と問題点
  ・耐震偽装事件を契機とする建築基準法の改正と混乱
  ・大谷幸夫
7.建築家・建築技術者の倫理
  ・プロフェッションと職業倫理
  ・JIA(日本建築家協会)およびUIAの倫理規定、行動規範
  ・設計料入札問題
  ・内井昭蔵
8.建築と都市
  ・多様な都市論と70年代
  ・アーバンデザインの不在と日本の街並み
  ・土地の私有制度と都市計画の不在
  ・磯崎新
9.姉葉事件とその後
  ・建築生産システム全体の見直し
  ・設計施工一貫とデザインビルド
  ・CMと価格の透明性
  ・鬼頭梓
10.都市景観をめぐる動き  
  ・景観基本法の制定
  ・高層マンションを中心にした景観を巡る地域紛争の多発
  ・景観条例、地区協定など各種法制と住民主体の街づくり
  ・司馬遼太郎
11.参加型家作り、まちづくり
  ・コーポラテイブ方式(参加型)による家・街づくり
  ・市民とまちづくり・・NPO
  ・コミュニテイーアーキテクト
  ・三井所清典
12.建築、街並みの保存と再生
  ・建築、街並みを残すことの意味。「記憶の保存装置」としての建築。
  ・「保存」の概念の変化・・サステイナブルな社会の構築
  ・近代建築の保存、ドコモモ
  ・伊東豊雄
13.環境建築論
  ・地球温暖化問題と建設産業・・地球温暖化とCO2規制
  ・サスティナブルとデュラブル
  ・環境配慮契約法の成立
  ・野沢正光
14.新しい建築資格制度
  ・建築を巡る専門家資格の将来像
  ・建築系卒業生の進路の変化と社会情勢
  ・新しい建築家資格制度・・国際比較とUIAアコード
15.期末試験
  ・プリント、参考書参照可

評価方法と基準

達成目標に掲げた各項目についての理解度を、期中および期末の論文・試験によって評価する。

教科書・参考書

・「建築倫理用教材」日本建築学会編集・丸善発売
・「日本の建築家職能の軌跡」藤井正一郎・鶴巻昭二著・日刊建設通信新聞社
・「建築の前夜」前川國男
・「空地の思想」大谷幸夫
・「健康な建築」内井昭蔵
・「建築のはじまりに向かって」内藤廣
・「建築革命」五十嵐敬喜、河野進他 
・その他古今の建築家が著した多くの著作

履修前の準備

・建築や都市に絡む様々な問題が日常的に生起し、新聞やテレビを賑わしています。問題の背景や社会的意味について、日頃から関心を持ち、新聞・雑誌などの記事にも目を通すことと、自分なりの考えを持つことが大事。
・上記の参考書のいずれかを読む。

オフィスアワー

授業終了後教室あるいは講師室にて

環境との関連

環境関連科目 (環境教育割合20%)

最終更新 : Thu Sep 20 07:47:31 JST 2012