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04185301

科学技術倫理学

Technological Ethics

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授業の概要

「技術者の倫理」の授業では、技術者が職務を遂行する過程で直面する様々な倫理問題について学習した。しかしこの授業では、技術そのものがかかえるより根本的な問題について検討する。科学技術と人間それぞれの本質を哲学的に掘り下げて理解することにより、今日科学技術が人間社会や自然にもたらす倫理問題の根本的原因とその解決の方向性について考察する。

授業の目的

技術と人間の本質について理解することにより、技術の利用に関して倫理的に判断する能力を養うこと。

達成目標

1.今日の科学技術の基礎をなす機械論的自然観について、古来の目的論的自然観と対比しつつ学習することで、現代人が無反省に真理だと思い込んでいる科学的なものの見方の有用性と限界について理解する。
2.科学技術および人間性(生命、人格)の本質について理解することで、両者の根本的な違いを認識する。そこから、科学技術を人間に適用する場合の問題点について考える。
3.科学技術と社会との関係に注目し、科学技術が社会や自然に及ぼす影響について理解する。その上で、科学技術に対する人間の責任について考える。

授業で使用する言語

日本語

授業計画


【授業計画】【授業時間外課題(予習および復習を含む)】
1.はじめに
 現代においては、原子力技術、遺伝子操作技術、臓器移植技術、細胞初期化技術等々、自然の摂理を超えるいくつもの技術が生み出されてきた。こうして人類が科学技術により自らの分限を超えるところに深刻な倫理問題が生じている。科学技術の使命と限界、そして科学技術に対する人間の責任について考えることが、科学技術倫理学の課題である。
科学技術倫理学の課題を理解すること
2.プラトンの技術観
 プラトンは、技術とは、単なる経験による習熟ではなく、物事の本質に依拠した知識であると考えていた。したがって、技術を学ぶことは、世界の本質について理解しそれに従って生きることでもあった。古代ギリシア人は、自然や宇宙の善なる秩序への信頼に基づき、技術によって善を実現しようとした。それに引きかえ、宇宙に対す畏敬の念を失い、技術によって自分に都合よく自然を利用することばかり考えている現代人は、かれらを笑う資格があるだろうか。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
3.アリストテレスの技術観
 現代の科学的なものの見方は機械論的自然観と言い、およそ300年前に生まれたものである。それ以前2000年もの間続いたのは、アリストテレスに由来する目的論的自然観であった。目的論的自然観について学習することにより、現代人が真理だと思い込んでいる科学的なものの見方を相対化し、いずれの見方もすぐれてはいるが、一つの偏ったものの見方であることを理解する。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
4.17世紀科学革命
 目的論的自然観から機械論的自然観への転換が、17世紀科学革命である。それはまた、自然を数学的に理解することを意味しており、数学の果たす役割は道具主義から実在論へと変わった。宇宙についての目的論的な説明と機械論的な説明の違いを具体的に学習することで、両者の違いを理解する。また、ニュートンの世界観について学ぶ。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
5.中間試験(1):第1回から第4回までの授業内容に関する試験。
機械論的自然観
 デカルトの二元論と粒子論により、機械論的自然観の哲学的基礎について学ぶ。現代の科学技術の基礎にある機械論的自然観とは、どのような自然の見方なのかを本質的に理解する。
第1回から第4回までの授業内容についての復習
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
6.中間試験(1)についての解説。
科学技術と生命(1)
 機械論的自然観に基づく科学技術(西洋医学)は生命に対してどのようなアプローチをするのか。医療技術が生命を機械論的に取り扱うための2つの戦略を具体的に検討する。そこから西洋医学の使命と限界について考える。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
7.科学技術と生命(2)
 遺伝子組み換え技術と細胞初期化技術(クローン技術、ES細胞、iPS細胞)は、生命の基本原則を超えた技術である。また、人間の脳と直接情報のやりとりをするブレイン・マシーン・インターフェイス(BMI)の技術がある。人類がこれらの技術を手に入れたことは、ある意味では人知の偉業と言えるかもしれないが、実は、遺伝子の働きについても脳と心の関係についても、依然としてよくわからないことの方が多い。そうした最先端の技術と、私たちはどのように付き合っていけばよいのだろうか。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
8.科学技術と社会(1)
 技術決定論は、革新的な技術の出現が社会の質を一変させると考える。しかし、社会構成主義は、技術が一方的に社会を規定するばかりでなく、技術もまた様々な社会の文化や要請に従って形を変えていくという面にも目を向ける。事例をもとに、技術と社会が相互に対話しつつ発展していくあり方について考える。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
9.科学技術と社会(2)
 技術とは、通常、生活を便利にするために利用されるものだが、時として技術自体に政治的な意図が隠されていることがある。技術を特定の人々を差別するために利用することも可能である。あるいは、自分では気付かずに、街のデザインによって差別をしていることもある。そこで、バリア・フリーとユニバーサル・デザインの思想の違いを学習する。また、市民の安全を守るための知恵として、コンセンサス会議と予防原則をとりあげる。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
10.中間試験(2):第5回から第9回までの授業内容に関する試験。
科学技術と人間(1)
 19世紀後半、都市に大工場が作られる、ベルトコンベアー方式が導入されたことで、作業効率は飛躍的に向上した。しかし同時に、チャップリンの映画「モダン・タイムズ」で描かれたような、労働者が機械の一部と化したかのような状況が出現した。人間は本来生きる意味を求める存在であるにもかかわらず、自分の作業の意味も目的も知らされないまま、朝から晩まで判で押したような単純作業を繰り返すよう命じられる。こうした非人間的な状況は、「人間疎外」として批判された。
第5回から第9回までの授業内容についての復習
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
11.中間試験(2)についての解説。
科学技術と人間(2)
 医療技術の進歩によって、かつて治らなかった病気が治るようになり、人の寿命も延びた。しかし、終末期において、治癒のわずかな可能性に賭けて、過酷な治療を続けたり、生命維持技術によって無益な延命措置がとられたりすることがある。そのことの反省から、今日では、老、病、死と徹底的に戦う科学的医療ではなく、人間を死すべき傷つきやすい(vulnerable)存在として尊重する医療の必要性が指摘されている。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
12.科学技術と人間(3)
 科学技術を用いて、人間の身体能力や精神能力を標準以上に高めることを、エンハンスメントと言う。スポーツにおけるドーピングや薬物により記憶力を高めることなどがその例である。なぜエンハンスメントによって高い能力を手に入れることは人間として許されないのだろうか? さらに、遺伝子操作技術によって望み通りの子(デザイナー・ベビー)を得られるとしたら、それをしてはいけない理由はあるのだろうか?
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
13.科学技術と自然(1)
 人間が生きるためであれば、他の生物や自然環境をどんなに利用しても許されるという思い込みが、人間中心主義である。それに対する反省が現代において生まれ、人間以外の自然にも生存権があるという主張もなされるようになってきた。そうした人間非中心主義の一例が「土地倫理」である。その哲学的な含意について考える。
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
14.科学技術と自然(2)
 閉じた有限な地球環境の中で、有限な資源を節度なく消費したり有害な廃棄物を際限なく排出したりしたらどうなるか、結果は火を見るよりも明らかである。現在世代の行動次第では、将来世代に危害を加えることになるだろう。開発を続けながらも持続可能であるためには、どうすればよいか。また、自然の根幹を揺るがす技術を、どのように規制すべきだろうか?
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること
15.期末試験:第10回から第14回までの授業内容に関する試験。
期末試験についての解説。
 現代科学技術に関する人間の責任について考える。将来の世代や自然環境にまで大きな影響力を有する現代技術を私たちが利用する以上、そこにはおのずと未来に対する人間の責任も生じるだろう。
第10回から第14回までの授業内容についての復習
プリント教材を熟読し、ポイントを把握すること

評価方法と基準

中間テスト(1)25%、中間テスト(2)35%、期末テスト40%。総合得点が60点以上を合格とする。ただし、出席率が3分の2未満の者は、期末テストの受験資格はないものとする。

教科書・参考書

適宜プリントを配布する

履修登録前の準備

この科目は、「技術と倫理」(09年度以前)として開講されていたものであるため、「技術と倫理」の単位を有する学生はこの科目を履修できない。

オフィスアワー、質問・相談の方法

金曜日12時30分〜15時、豊洲校舎2F講師室にて。

環境との関連

環境関連科目 (環境教育割合20%)

地域志向

地域志向ではない科目

社会的・職業的自立力の育成

対課題基礎力を育成する科目

アクティブ・ラーニング科目

能動的な学修への参加による授業が概ね半数

授業の到達目標と各学科の学習・到達目標との対応

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最終更新 : Sat Sep 02 04:00:52 JST 2017